適切な距離感2

前回書いた通り、患者さん・家族との適切な距離感を取ることは難しい。自分自身も何度か失敗して学習していった面もある。ただそんな自分から見ても、「これはあかんやろ~」と言いたくなる医者は居る。

 

一人目の医者をAさんとしよう。(話は逸れるが、医者同士お互いを先生と呼び合うのは好きじゃ無い。実生活は仕方なく使っているが) Aさんは育ちのいい人で穏やか。人当たりも良く、誰かに頼まれると断れないタイプ。この人で困ったのは夜間の電話再診である。ウチの病院は、夜間患者さんや家族からの電話を当直医に取り次ぐことになっている。これは、緊急性のある人を拾い上げる為のシステムだ。にも関わらず、お悩み相談よろしく愚に付かぬ事を話したいだけで連日電話を掛けてくる輩が居る。私自身、そういう輩には最低限だけ話を聞き、緊急性は無いと判断すれば親身に話を聞くことなどない。いきなり電話を切ったりはしないが、紋切り型で応対し「明日主治医に相談してください」とだけ述べて電話を終える。しかしAさんは違う。親身に話を聞き、詳細にカルテにも残す。その為、そういう輩の中には「A先生は居ませんか?」と話すなど絶大な信頼を得ている。しかし私に言わせれば、それは中途半端な優しさである。何故なら、それ以外の日は別の当直医が対応する。全員にAさんと同じ対応をしろと言うのか?それは無理だ。そういう輩の電話に付き合って体力・精神力を消費して、本当に緊急性のある人に対してエネルギーを注げなくなったらどうするのか。そもそもソイツとの電話で、本当に緊急性がある人との電話が繋がらない可能性もあるだろう。そう考え、その日の当直医はAさんよりは時間も労力を取らない対応をする。すると、そういう輩ほど不満を感じる。「前に電話した時にはもっと親切に対応してくれた。今日の当直医は何だ!」と。そして攻撃的な言動に出て、当直医を疲弊させる。

 

やるのなら24時間365日Aさんが対応してくれるならそれで良いだろう。それができないのなら、中途半端な優しさである。その中途半端な優しさで、そういう輩は筋違いの期待をし、当直医は疲弊し、本当に緊急性のある人は救われない。それなら、おざなりな対応だけをして「夜にお悩み相談をしても大した解決にはならない」と理解してもらう方が本当の優しさだと思う。