開業医に向いている人

 自分が勤めている病院は開業する医師が多い。下手すりゃ精神保健指定医を取るか取らないかくらいで開業する人も居る。自分の同期の一人も、入職当初から「将来は開業したい」と言っていた。自分自身も開業しないのかと聞かれた事は何度もある。ここで開業するメリット・デメリットを考えたい。特に精神科は他の科とは違う面も多い。

 

 精神科の場合、特殊なのは元手が他科程かからないということだ。脳外科で開業するとなるとCTやMRIでとんでもない初期投資が必要だ。精神科の場合、下手をすれば採血もしないようなクリニックもある。(炭酸リチウムとかデパケンとかメマリーを処方しているのに採血もしないなんてどうやねんとは思うが・・。リチウム中毒を見抜けず、紹介してくるダメダメ開業医は結構居るし・・・。) ただ他科の場合、開業すると体が楽になるというメリットがあるが精神科には無い。他科の先生は毎日夜遅くまで働き、時間外コールもあるし、土日も患者を見に行かなければならない。救急当直は本当にしんどい。(病院によって差はあるだろうが) 精神科の場合、17時には帰れて、時間外の呼び出し無し、土日も日当直に当るとき以外はフリー。当直も救急を頑張っている所なら多少しんどいが、他科の比では無い。(これも病院によって差がある) 開業すると早くても18時半頃まで開けないといけないし、土曜日も半コマ開ける所も多い。他科の場合、「勤務医の時より楽じゃん、ラッキー♪」てなもんだが、精神科の場合は時間的拘束は増す。

 

 他科との共通してしんどいのは、経営の事を考えないといけないとか他人を雇わないといけないとか。変な奴を雇った場合、どう対処するのか、その対処方法を間違えるとまともな人が去ってしまう。また、クレーマーが来たときも自分が対応しないと行けない。

 

 ただメリットとしては自分がやりたいようにやれること。上から命令されないので、自分のクリニックでやりたい事を突き止めれば良いし、それに合わなければ紹介すれば良い。

 

 色々考えると自分は開業向いていないかなと思う。今の給料で充分というのが一番。それに今現在は仕事が終わると完全に頭を切り替えることができるが、開業すると家に帰っても色々考えないといけなくなるだろう。それに患者数が少ない時は焦燥感が止まらないような気がする。あと、特別これをやりたい!と思えるほど仕事に情熱は無い。

 

 精神科の開業に向いているのはお金が欲しいか、自分のやりたい医療がある。そういう人達だと思う。

 

医学部時代の話⑨

 卒業試験が終わると本格的に国家試験の勉強を始める。自分で問題集を解いたり、国家試験予備校のビデオ講座を見たりする。ビデオ講座だが、現役生は団体割引もあり安価で見ることができるが、浪人すると授業を受けに行くのもビデオ講座を受けるのも一気に高くなる。(医者になったら返すローンなども組めるらしいが・・。結局通らなかったらどうなるんだろうか。) 自分達の頃はメック(こうしろう)とテコム(三苫)の二強だった。メックは受験テクニック、テコムは本質的理解に重点を置いていた気がする。

 大体はグループで勉強会などを行って進捗具合を確認するが、他人とあまり絡みたく無い自分は一人でやっていた。


 合格基準は4つあり、①一般問題の合格基準点を超える②臨床問題の合格基準を超える③必修問題を8割取る④禁忌選択肢を3つ(4つだったかも)以上選ばない。

③の必修問題が曲者で、1点問題と3点問題があり、200点中160点を取らないといけない。40点しか落とせないが、3点問題を連続して落とすと結構苦しくなる。

④の禁忌選択肢は選んだら絶対ダメという選択肢。患者の命に関わるとか、倫理的に問題あるとか。しかし基準がよく分からず、明らかに禁忌だろという禁忌選択肢を踏んでもカウントしてなかったり、その逆があったり。どれが禁忌だったか公表されていない。大抵は①〜③のどれかで不合格となっている人なので大して問題にならんが、稀に禁忌単独落ちの人も居てそういう人は納得いかんだろうな〜とは思う。


自分は何とかギリギリで合格し堂々と卒業式に出ることができたが、落ちた人達は気まずそうだった。あと一問間違えてたら自分も同じ立場だったかと思うと、色々考えてしまった。


医学部時代の話⑧

5年生の実習が終わると、6年生前期の実習。5年生はみんな同じカリキュラムだが、6年生は各人の希望に応じて、行く先はバラバラだ。内科系、外科系、マイナーで一個ずつ、その内二つは学外で行う事になっている。以前は希望がかち合った場合、学生間で話し合いをしたが、現在はCBTの順位が高い人から順番に希望の場所に行けるらしい。


後期は卒業試験。医学部は卒論がない代わりに試験をやるのだ。国試形式のマークシートの総合試験をやる大学もあるみたいだが、ウチは各科で試験が行われた。20個くらいの試験があり、1週間で2個ずつ行われた。科にやって、国試形式のマークシートだったり、国試に準じた内容だが記述式も入ったり、国試と全く関係ない記述式の試験だったりした。20個も試験なんて大変!と思われるかもしれないけど、ウチの大学はそうでもなかった。半分くらいは過去問そのままが出て、全員合格という試験だったからだ。3つくらい面倒な試験もあったが、それもバンバン落とすわけではない。卒留は数年に一度出るかどうかのレベルであり、ほぼ全員が国家試験の受験資格を得る。

医学部時代の話⑦

 5年生になるといよいよ病棟実習だ。5~6人が一班になり、2週間単位で各科を回る。大学や時代によって組み合わせ方はバラバラで、機械的に名簿順だったり、成績順で各班満遍なく同じレベルにしたり、学生同士で好きな者同士で決めさせる所もある。(学生同士で決めさせるって、かなりリスクあると思うが・・。) ウチの大学は成績順であったが、女子とか留年経験者を各班1~2人までにするとか、過去の実習でイザコザがあった者同士を離すとかで微調整があった。

 

 実習内容は科によってバラバラだった。外来・検査・手術の見学、ミニ講義、他病院・開業医・施設への見学、教授回診やカンファでの発表、レポート提出、最後に教授もしくは准教授のまとめなどは共通だった。しかし科によって熱意は様々で、全く拘束しない科では2週間で拘束時間10時間とかもあった。やる気ある科でも19時頃には帰れたのでウチの大学は緩い方だと思う。教える方も患者さんを見る片手間に学生を教える訳で、忙しくて全く相手に出来なったり、端からその気が無い人も多く居た。反面、もの凄く教育する気満々の人も居た。今、研修医が来ても、(精神科志望で無ければ)ユルユルの指導しかしない自分からすると頭が下がる。

 

 ちなみに白い巨塔でやっているような教授回診は未だにある。ゾロゾロ大名行列をしている。ちなみに私が大学病院が行かなかった理由の大部分を占める。科の責任者が全ての患者さんの情報をざっくりでも入れていくのは有りと思うが、あんな行列居るんかいなと思う。カンファ室で順番にプレゼンして終わり、判断に迷う患者さんだけ診察でええんちゃうの?

 

 病棟実習で何より大切なのは一部教授の地雷を踏まないことだ。怒らせると面倒くさいタイプのね。ウチの大学にも数人居て、その教授の質問への対策集なども作られていた。

 

そんなこんなで6年の前期まで実習は続く。


あと、実習以外には金曜の午後だけ講義がある。1年生の時の医学序説みたいに、各科の教授が順番に来て講義をする。以前は出席さえしていれば単位が取れたけど、今はテストが存在する。出席のみで良かった時代、出席せず学務に呼びつけられた学生が「テストがないんなら、講義に出るモチベが保てないですよ。」と宣ったらしく、以後はテストを行うようになった。前述の通り、臨床の先生は忙しいし、こっちもテスト勉強は怠いしで、誰得な制度改革だっあ。

医学部時代の話⑥

前回言ったような上っ面だけの臨床講義が4年前半まで続く。4年後半は基礎配属といって、各自で研究室に所属して研究活動を行う。研究室によって内容やしんどさはバラバラで、毎日朝から晩までずっと居なきゃいけない所もあれば、週に1回午前だけ顔を出せばオッケーという所もある。自分は毎日9時5時で行く所だったが、研究内容に全く興味がなく、何をやっていたのか思い出せない。テーマも与えられたが、大して面白くない結果しか出なかった気がする。今は最後にまとめの論文・発表があるのである程度は真面目にやらないといけないらしい。


そして4年の終わりにはCBT・OSCEと言われる関門がある。全国の医学部で色々なカリキュラム・進級基準があるため、病棟実習に出る前に全国基準をもうけようぜという考えで始められたものだ。

CBTとはパソコンで解く5者択一式(2つ選べとか3つ選べもあったかも)のテストである。これまで4年間で学んだ内容が問われるプレ国家試験だ。ただし多数のストック問題から個々人に出題されるので、人によって問題が違う。なので有利不利が出ることもあるだろう。ただ何百問も解くので結局均一化するとされている。(これって、プロスポーツで誤審があった時によく言われる「1試合だけ見ると不公平かもしれないが、シーズン通してだとプラマイゼロだよ。」という理論に少し似ている。)

そしてOSCEは患者さん役の役者さん(?)に問診や診察をする、お医者さんごっこの発展系みたいな試験だ。これは12月頃から対策の授業がある。問診、体の様々な部位の診察、縫合など。

 

しかしこれらにも裏話がある。まずCBT。全国基準をもうけようとう考えで始まった癖に学校毎で合格基準が違う。ウチの大学は55%くらいで通っているという噂だったが、厳しい所では70%とかあったらしい。当時堕落しまくっていた私には高いハードルだ。(普通にやってた人からしたら鼻で笑うだろうが)余談だがウチの大学は例年2~3人しか落ちない。更に余談だが試験は図書館のパソコンで行われていた。つまり追試の際は2~3人の為に図書館のパソコンコーナーが貸し切りになっていたのだ。そして全員合格。

今は追試は全国共通会場になったらしい。また、そもそもの合格基準も全国統一になったらしいのであまり怠けると留年する。

 

学校毎で合格基準が違うなんて不公平!と思うかもしれないが、OSCEはもっと不公平だ。試験問題の漏洩を防ぐ為に早めに終わった人達もずっと拘束されるので問題は共通だ。(どこかの大学で出席番号前半の人が漏洩して騒ぎになっていたっけ) しかし採点する側の裁量に任させられる面が大きい。筆記試験と違いやむを得ない面もあるにしろ、学年全体で8人くらいしか落ちていないのに50番台の人が4人も落ちるのはおかしいだろう・・。普段の試験でもそんなに落ちない人達だぞ・・。しかし再試に行っても心配ご無用。再試という名目で「この場面はこういう風にしましょうね~」という補講だったらしい。もちろん、全員合格。こっちも現在は公平になっているらしいが・・。

医学部時代の話⑤

3年生になると、ウイルス学・細菌学・微生物学・免疫学・病理学・公衆衛生学・薬理学と2年生に比べると病気に直結する教科が増えてくる。病理学は2年で習った組織学を基に、病気になった時の細胞の構造をスケッチする。免疫学は身体の防御機能を勉強する。薬理学は膨大にある薬の作用機序・副作用を学ぶ教科で、この学年で1番しんどかった。


そして3年の途中から臨床医学、いよいよ個々の病気について学習が始まる。ウチの大学は、2000年頃から流行りのチュートリアル教育を行っている。簡単に言えば、講義は最小限にして、あとは個々の症例についてチューターの指導の下でグループ毎に議論しスライドで発表する。しかし如何せん、上っ面だけしか取り上げてないので全然機能していない。チューターは、普段大学病院に勤めてる医師であり、時間も熱意も無い。大学側から余計な仕事を押し付けられるくらいにしか感じてない様子だった。まあ、そもそもどのようにチューターとして進めていくのかマニュアルさえ用意されていなけりゃ、そらそうなるよな。学生もグループ学習の中で発言する者は極少数。酷い場合はクジで発表者だけ決めて、あとはサヨナラという班も。教授の間でも元々の講義スタイルが良い派とチュートリアル教育が良い派が対立していたそうだ。そしてテストも一部を除いたら楽勝だった。大学病院で働くお医者さんは、ワザワザ難しい試験を作って学生を困らせる程ヒマじゃない。過去問通りの拓一式なので、当日から勉強(というか、答えを丸暗記)すれば楽勝だった。逆に言えば基礎医学の方がテストが難しいというのは、彼らがヒ(ry


かくして、臨床に関しては不真面目な学生はどこまでも堕落するシステムであった。勿論、私も思う存分堕落していった。

医学部時代の話④

2年生からはいよいよ医学部キャンパスに移り、専門教育が始まる。

いわゆる基礎医学からスタートする。病気のことを勉強する前に、正常の人体構造を理解することから始まる。・・・が、これが結構しんどい。教養で楽をしてたし、覚えるべき用語が多すぎるし、病気と直結していない(ように見えて)面白くないし・・・。テストは殆ど記述式で過去問ともガラッと変わることもしばしば。講義で殆ど触れていない、教科書の端にチョロっと書いている事が出たりねぇ・・。

主な講義はこんなもんか。

組織学

顕微鏡で細胞をスケッチ。絵心ないと結構苦戦。

肉眼解剖

いわゆる解剖実習。4人で1体を解剖する。エグいとかホルマリンの匂いがきついとかはすぐ慣れるが、体力的にきつい。朝から晩まで週3~4。予習しとかないと何やってんだか分からないけど、その気力が沸かない。

脳解剖

脳の解剖。上記の解剖と一緒にやる学校もある。

生理学、生化学

人体の中で行われている機能を学ぶ。覚えることがクソ多い。

疫学

疾病の発生原因や予防などを学ぶ。個人的にはこれが一番好き。

 

この学年が1番大変で留年する人が多い。(学校にもよるが)

学生の為を思って敢えて厳しくしてる教授も居たが、面白がって大量に落としてるようなクズ教授も居たなぁ。